東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)220号 判決
審決の取消事由(1)(請求の原因三2)について判断する。
成立に争いのない乙第一、二号証の各一ないし五、第三号証の一ないし三、第五号証によれば、被告の反論二1の事実が認められ、右事実によれば、引用意匠が登載された株式会社包装産業新聞社発行の雑誌「製袋情報」昭和四四年七月二八日号が本件意匠の意匠登録出願前日本国内において頒布された刊行物に当たることは明らかである。甲第一一号証はこれを覆えすに足りるものではなく、原告の主張は失当である。
三 次に、取消事由(2)(請求の原因三3)について検討する。
1 本件意匠が意匠に係る物品を「輸送用コンテナ」とする別紙意匠公報に記載のとおりの構成からなるものであることは当事者間に争いがなく、右意匠公報によれば、本件意匠は、その基本形状を略立方体とした袋体において、各側面縦中央の上部寄りに、幅と長さの比を略一対二とする長方形状のベルト座を設け、その上端部に吊ベルトとして短い長方形ベルトを介してパイプ状のフツクを設けて、本体吊下部とし、上面中央には、充填筒を方形の充填口蓋の内側に設けて充填口部とし、下面中央には排出筒を方形の排出口蓋の内側に設けて排出口部とし、各側稜の上端寄りにはわさ状フツクを設けたものであることが認められる。
これに対し、成立に争いのない乙第一号証の五によれば、引用意匠の構成が審決の理由の要点2で審決の認定したとおりであることが認められる(この点は、原告も認めるところである。)。
2 そこで、両意匠を対比すると、先ず、袋体の構成比率において、本件意匠は、これを略立方体すなわちその幅、奥行、高さの比を略一対一対一とするのに対して、引用意匠は、これをやや縦長の正四角柱状すなわちその幅、奥行、高さの比を略一対一対一・三とする点において相違するが、成立に争いのない甲第六ないし第一〇号証によれば、本件意匠の類似意匠として登録された類似第一号ないし第五号の意匠において、その袋体は略立方体よりもやや縦長の正四角柱状すなわちその幅、奥行、高さの比を略一対一対一・二二ないし一・二五とするものであることが認められるから、引用意匠の方がやや縦長の度合が大きいとしてもその差は少なく、右の相違は類似の範囲を出ないものと認められる。
次に、本体吊下部のベルト座について、本件意匠は、ベルト座の幅と長さの比を略一対二とし、これを側面縦中央の上部寄りに付着しているのに対して、引用意匠は、その幅と長さの比を略一対七とし、これを側面縦中央の略上端近くより下端近くにかけて付着している点において相違するが、前掲甲第八号証によれば、類似第三号の意匠において、ベルト座の幅と長さの比を略一対五とし、これを側面縦中央の略上端近くより下端近くにかけて付着させていることが認められるから、この点も本件意匠と引用意匠を区別する特徴ということはできない。
第三に、排出口部の排出口蓋について、本件意匠はこれを方形としているのに対し、引用意匠はこれを円形蓋体を放射状に切り込み六個の台形状の弁状体としている点において相違するが、前掲甲第八ないし第一〇号証によれば、類似第三号ないし第五号の意匠において、その排出口蓋の形状を引用意匠と略同様の形状としていることが認められるので、右の相違点をもつて本件意匠と引用意匠とを区別するに足りる相違点とすることはできない。
第四に、引用意匠には袋体側面下端寄りに表わされた横線模様があるのに対し、本件意匠にはこのような模様がない点において相違するが、前掲甲第八ないし第一〇号証によれば、類似第三号ないし第五号の意匠にはその各側面にベルト座の左右に各二本ずつの縦線模様が表わされており、これによれば、本件意匠がその各側面の構成を本体吊下部のみを配し他は空白とするものに限らず、これに線模様を配することもその類似の範囲として許容していることが認められるから、右の相違点をもつて、本件意匠と引用意匠を区別する重要な特徴ということはできない。原告が請求の原因三3(二)(2)で述べるところは、本件意匠の類似第三号ないし第五号の意匠に示される前示縦線模様の意義を無視するものであつて、採用できない。
3 以上に認定したところによれば、本件意匠と引用意匠とは、基本形状を略立方体あるいは正四角形状とした袋体において、上面に充填筒及び方形の充填口蓋を設けて充填口部とし、下面中央に排出筒及び排出口蓋を設けて排出口部とし、各側面の縦中央に縦長方形状のベルト座とその上端部に吊ベルトを設けて本体吊下部とし、各側稜上端寄りにフツクを設けた点において共通し、意匠の構成として取り上げるべき相違点は僅かに、ベルト座の上端部に設けられた吊ベルトにおけるフツクの形状が本件意匠においてはパイプ状であるのに対して引用意匠のそれがわさ状であることと、各側稜上端寄りに引用意匠においてはフツク座が設けられているのに対して本件意匠にはこれが設けられていないとの二点にあるものといわなければならない。
そして、右の吊ベルトにおけるフツクの形状の差異は本件意匠と引用意匠の全体の形状の中においては極めて小さい部分の差異であり、コンテナ全体を見る者にとつては指摘されてはじめて気が付く程度の微少な差異にすぎず、これを原告が主張するような重要な差異とは到底いうことができない。また、フツク座の有無も、本件意匠と引用意匠の構成の大部分を占める前記の共通点から見るとなお部分的な差異にとどまるものといわざるを得ず、これをもつて本件意匠を引用意匠と別個の意匠とするに足りる大きな特徴ということはできない。原告の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件意匠と引用意匠は、これを全体として見るとき共通した印象を与えるもので、意匠として類似の範囲を出ないものと認めるのが相当であり、成立に争いのない甲第一二号証ないし第一六号証記載の各意匠が意匠登録された事実は右認定を覆すに足りるものとは認めがたく、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
したがつて、右と同旨の理由により本件意匠の登録を無効とすべきものとした審決に違法な点はない。
四 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。